アイヌ政策検討市民会議 設立にあたって

 

問題意識

 

  1. 現行のアイヌ政策の骨子は「有識者」による密室の会議によってつくられ、当事者のアイヌは蚊帳の外に置かれてきた。これは国際人権文書で謳われている先住民族の権利FPIC原則から逸脱しており、アイヌの人権を著しく損なっている。
  2. 現行のアイヌ政策はまた、「先住民族の権利に関する国連宣言」はもとより、法的拘束力のある国際人権規約などの国際人権法も無視して進められている。このことは国際法の誠実な遵守を謳った日本国憲法98条2項にも反する。
  3. 現行のアイヌ政策はしたがって、社会政策であって、先住民族政策ではない。それは「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」が日本による北海道の植民地化の歴史を直視せず、その歴史に終止符を打っていないことからも明らかだ。
  4. 同有識者懇談会は8名の「有識者」のうち、5名が研究者である。それにもかかわらず、その報告書は上記のように国際人権法、日本国憲法や植民地化の歴史に照らして多くの問題がある以上、学問の在り方も問われなければならない。
  5. 現行のアイヌ政策は日本社会の問題を反映していると考えられる。したがって、アイヌ政策の問題点を市民社会に広く知らしめ、歴史、文化、権利の観点から、当事者アイヌを中心に据え、ボトムアップで代替案を探る必要がある。

 

 

目的

 

アイヌ政策から直接影響を受けるアイヌはもとより、アイヌ政策に懸念をもつ国内外の研究者、教育者、ジャーナリスト、芸術家、社会活動家、政治家、学生や市民らが集まり、現状のアイヌ政策について開かれた場で批判的に検討する。その結果明らかになった問題点を広く市民社会と共有し、国や道主導から当事者アイヌの自決権に基づくものへと転換するための基盤、すなわち代替策をつくり、日本政府や国連人権監視委員会など国内外の関係諸機関に提示する。

 

 

2016年4月9日

一部訂正 2016年12月23日

 

丸山博

アイヌ政策検討市民会議 設立呼びかけ人

 

室蘭工業大学名誉教授、ウプサラ大学名誉博士、客員教授

 


アイヌ政策検討市民会議は、2022年6月26日に札幌市教育文化会館で開いた2022年度定期総会で、丸山博代表の退任を了承し、運営委員のジェフ・ゲーマンさんを新しい代表に選出しました。

 

ジェフ・ゲーマン代表

ジェフ・ゲーマンです。

いま、運営委員の樺太アイヌ/エンチウの田澤守さん、静内アイヌの葛野次雄さんが、「アイヌの声を聞く、アイヌ自身が発言できるような体制をつくることが大切だ」と課題を示してくださいました。今後、そのように進められたらいいな、と思っています。市民会議は、名前の通り、運営委員が協力しあって、すごくがんばってくれる人もいますし、ひきつづき、みなさんとフラットな関係を保ちながら進めていければいいなと思います。よろしくお願いします。(2022年6月26日、市民会議総会でのスピーチ)

 

みなさん、長らくの会議にご参加いただき、おつかれさまでした。北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院及び教育学院のジェフ・ゲーマンです。きょうをもって、アイヌ政策検討市民会議の代表を仰せつかりました。

会場にいらっしゃる和人のみなさんには、おそらく耳が痛いお話もいっぱいあったんじゃないかなと思います。今日の市民会議は、田澤守さんの個人的な強い思いがあって実現しましたが、アイヌのみなさんのいろいろな思いを確認できて、これから発展していきそうな具体的なテーマがいっぱい見つかったと思います。

私は、北海道大学にきて10年が経ちますが、学生たちにどのように教えたら先住民族のことを考えてもらえるだろうか、と常に考えています。丸山博さんが指摘されたように、植民地主義という思想は、何も(勢力を争ってアイヌモシリ支配をもくろんだ)日本とかロシアとかに限定されるものではありません。植民地主義国家は世界中にあったし、現在の私たちもまた、植民地主義的な思想・政治によって、さまざまなしわ寄せをこうむり続けていると思います。木村二三夫さんが「開拓使は新冠に御料牧場をつくるためにオオカミを殺し、滅ぼした」とお話しされましたが、それは当時、日本政府に顧問として雇われていたアメリカ人の助言で行なわれたことでした。その地域の自然環境をかえりみない、植民地主義的な考え方が、そこに反映されていたと思います。それと同じように、いま、アフリカで多くの人たちを餓死させているような状況にも、現在の地球の人々の植民地主義的な考え方が反映しているのではないでしょうか。

このアイヌ政策検討市民会議は、心ある人たち――和人・外国人・アイヌの人たちが集まって、一緒になって考える、ということに大きな意味があると思います。いま、アイヌ先住権を日本国は認めるのかどうかをめぐって、ラポロアイヌネイションの訴訟が進行中です。これから他のアイヌ・グループに動きが拡大していく可能性もあると思いますが、こんなふうに司法制度を活用してアイヌの権利回復を目指している人たちとも、市民会議は協力していきたいと思っています。

月刊誌「WILL」や一部の政治家たちによる樺太アイヌに対する不当な攻撃に対して、市民会議は(反撃の)アクションを起こしますか? というご質問がありました。きょうのこの市民会議の模様は記録され、広く共有されると思いますし、この問題についての市民会議はこれで最後、というわけでもありません。そのような(先住民族に対して差別的な)人たちにも来ていただいて、冷静な議論を続けていけたら、と考えています。

予定の時間を超過してしまいましたが、きょうの講師のお二人、榎森進さん、石堂了正さんに深くお礼を申し上げます。また、きょうの会議開催をめざして樺太アイヌの思いを貫き通した田澤守さん、その思いを受けて質問してくださった多原良子さんをはじめ、会場にお越しのアイヌのみなさんにも感謝を申し上げたいと思います。みなさん、どうもありがとうございました。

(2022年6月26日、市民会議「樺太アイヌの歴史を考える―物語でも捏造でもなく―」閉会にあたってのスピーチ)


呼びかけ人

アン・エリス・ルワレン(カリフォルニア州立大学サンタバーバラ校准教授)

井上勝生(北海道大学名誉教授)

上村英明(恵泉女学園大学教授、市民外交センター代表)

宇梶静江(首都圏アイヌ・ウタリ連絡会代表、詩人、古布絵作家)

榎森進(東北学院大学名誉教授)

小川隆吉(アイヌ遺骨返還請求裁判原告)

貝澤耕一(二風谷ダム裁判原告、元室蘭工業大学客員教授)

萱野志朗(アイヌ民族党代表、萱野茂二風谷アイヌ資料館館長)

ジェフ・ゲーマン(北海道大学大学院准教授)

小松豊(札幌郷土を掘る会代表)

清水裕二(コタンの会代表)

高木喜久恵(アイヌ文化伝承シノッチャの会会長)

瀧澤正(北海道歴史研究者協議会)

殿平善彦(一乗寺住職)

花崎皋平(哲学者)

丸山博(室蘭工業大学名誉教授、ウプサラ大学名誉博士・客員教授)

テッサ・モーリス=スズキ(オーストラリア国立大学教授)

エリック・ヤマモト(ハワイ大学ロースクール特別教授)

吉田邦彦(北海道大学大学院教授)

若月美緒子(教科書のアイヌ民族記述を考える会)

 

(あいうえお順、2016年3月14日)