日本人類学会、日本考古学協会、日本文化人類学会は、研究倫理指針(案)の検討に代えて、これまでの「アイヌ研究」の問題点を明らかにして謝罪するとともに、今日まで続くアイヌのご遺骨および副葬品への不当な収集及び管理を明らかにし、それらの返還、再埋葬の実現に取り組むよう求めます

アイヌ政策検討市民会議

2020年2月4日

 

研究倫理指針案は、今までのアイヌ研究がアイヌを研究対象として一方的に知の搾取を行ってきたこと、その象徴として、盗掘を含めて、ご遺族、子孫の意志に反してご遺体を掘り出し、副葬品を持ち出したことに対する反省が不明確です。これらの問題は、「アイヌ民族独自の世界観や宗教観に対する十分な配慮が欠如」や「アイヌ民族と研究者との間で研究の目的や資料の取り扱いについて議論する場と機会がこれまで設定されなかった」という次元の問題ではありません。北海道を植民地化する過程において、アイヌ民族を蔑視し、人間扱いしなかった、人道上の問題です。このような加害の歴史を明らかにしないで「反省」などと言っても、これまでの人類学研究のあり方を反省したことにはなりません。

 

「アイヌ民族は、『先住民族の権利に関する国際連合宣言』に示された権利を尊重されるべきである」と明記しているにもかかわらず、第12条「遺骨返還の権利」に言及しないのはなぜでしょうか。また、「権利を尊重されるべき」と述べながら、権利の内容について「アイヌ民族は、自らの文化遺産について固有の定義と考え方を有しており、アイヌ民族は、このことを関連する研究に対して主張することができる」というように、「主張することができる」と述べていることも問題です。上記の宣言が定めている先住民族の権利は、主張する権利ではなく、個人及び集団の自己決定権であり、それに関する諸権利、ここでは自らの文化の維持・発展を行う権利、遺骨返還を求める権利です。

 

したがって、ご遺族、ご子孫が不明なご遺骨等は、誰にも、その利用を決定する権利はありません。掘り出された地域が明らかであれば、ご遺骨等は、いつの年代に埋葬されたものであれ、元の地に戻すべきです。にもかかわらず、1868年以前に埋葬されたアイヌ民族のご遺骨等を、「研究対象とすべきでない資料の対象外」とすることは、上記の「宣言」に定められた権利に反するだけではなく、アイヌ民族の祖先との精神的繋がりを無視した、倫理に悖る指針であって、国際社会の認識とは逆行するものです。

 

そもそも、ご遺骨や副葬品を用いた研究だけでなく、アイヌ民族の尊厳を傷つけてきた研究が数多くなされてきたことを自覚し、反省するべきです。研究倫理指針(案)を策定する前に、これまでの研究の何が問題で、それをどう反省するべきかを明らかにし、学会として謝罪するべきです。以上の理由から、わたしたちは、日本人類学会、日本考古学協会、日本文化人類学会に対し、以下のことを求めます。

 

  1. 研究倫理指針(案)を策定する以前に、アイヌ民族の尊厳を傷つけてきた研究が数多くなされてきたことを明らかにし、学会としてアイヌ民族に謝罪すること。
  2. アイヌ民族のご遺骨ならびに副葬品の収集、管理、研究利用についてはとりわけ重大な人権侵害が行われてきたゆえ、植民地主義や人種主義との関係を明らかにし、近年のご遺骨ならびに副葬品への返還要求への不適切な対応も鑑み、学会としてアイヌ民族に対し謝罪すること。
  3. 「『先住民族の権利に関する国際連合宣言』に示された権利を尊重されるべきである」と明記している以上、個人及び集団の自己決定権および、それに関する諸権利、ここではアイヌの人たちが自らの文化の維持・発展を行う権利、遺骨返還を求める権利を尊重すること。
  4. 研究倫理指針(案)に代わり、上記の宣言に加えて海外の先進事例も踏まえ、アイヌ民族のご遺骨ならびに副葬品を返還、再埋葬するための指針を策定し、それを誠実に履行すること。