アイヌ政策検討市民会議
代表 ジェフ・ゲーマン
https://ainupolicy.jimdo.com
私たちアイヌ政策検討市民会議は、2025年11月1日、札幌市内で集会「みんなでチェック! 日本の先住民族政策」を開き、「アイヌ施策推進法見直しに関する要請」(2025年11月15日付け)を日本政府に届けるなどしてきました。ところが政府は、2025年12月13日に札幌市内で開催したアイヌ政策推進会議(座長:黄川田仁志国務大臣、12委員)の配付資料「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律の施行5年後検討結果」で、〈総合的な施策の継続実施に当たっては法改正を要せず、法改正の要望があった事項については困難であることから、法改正はしない〉(p37)と断言して、要請をすべて切り捨てました。非常に残念です。
上記の市民会議要請は、市民会議が2024年4月20日付けで公表した「アイヌ施策推進法見直しに向けて(提言)」に基づくものでした。提言が現行法の問題点として個条書きにした6項目それぞれの観点から、このたびの政府の「5年後検討結果」を照らし、改めてコメントします。
●アイヌ政策検討市民会議がといただしていた問題点1
アイヌ民族を日本の先住民族であると法律で明記しているにもかかわらず、先住民族であることに伴う権利が一つも盛り込まれていないこと。
法改正を要しないとした「政府の5年後検討結果」
〈同宣言(先住民族の権利に関する国連宣言(UNDRIP2007)のこと=引用者)のうち、差別を受けない権利、国民の理解の促進、土地資源の権利及び先住民族の文化に関する項目を参照し、これらの趣旨に対応する措置として、アイヌ施策推進法に、アイヌの人々に対する差別の禁止に関する基本理念、国及び地方公共団体の教育活動、広報活動等の責務、国有林野における林産物の採取及び内水面におけるさけの採捕に関する特別措置に関する規定が盛り込まれているところ。/政府としては、先住民族の権利に関する国連宣言に示されている国の果たすべき責務は、憲法との課題整理を図る必要があるものを除き、現行のアイヌ施策推進法及び関係法令により、おおむね措置されていると考えている。〉(p33)
法改正しないことに対するアイヌ政策検討市民会議のコメント
アイヌを含む世界の先住民族自身が起草作業に参加し、自分たちの声を反映させた国際人権法であるUNDRIP2007に対して、あまりにも敬意を欠いていると言わざるを得ません。この点については、早くも2019年の法案段階で各方面から「アイヌを先住民族と明記しながら、肝心の先住権が盛り込まれていない」と指摘されてきましたが、修正のないまま可決成立・公布・施行されました。〈憲法との課題整理を図る必要がある〉とありますが、このたびの「5年後検討」で、政府はそれは行なったのでしょうか? 今後、行なうつもりはあるのでしょうか?
「検討結果」は、差別禁止・教育・広報の責務や、林野・サケ利用に対する「特別措置」に言及していますが、法律施行からの5年間に、これらの措置がごく形式的で、UNDRIP2007がめざす〈先住民族の権利と自由の承認、促進および保護への……重要な一歩前進〉(UNDRIP前文パラグラフ21)に寄与していないことが、すでに露わになっています。
にもかかわらず、〈おおむね措置されている〉という日本政府の自己評価からは、それらの指摘や実態に耳も目も塞いで、地球上でひとりガラパゴス化していく姿しか思い浮かびません。
●アイヌ政策検討市民会議がといただしていた問題点2
アイヌ民族が文化振興計画や地域振興計画立案の主体とはされておらず、あくまで市町村の意向と計画に基づいて財政投下の措置が行われる仕組みになっていること。
法改正を要しないとした「政府の5年後検討結果」
〈内閣総理大臣の認定を受けたアイヌ施策推進地域計画に基づき、現在37の市町村がアイヌ文化の振興に関する事業の他、コミュニティ活動支援のためのバス運営、ブランド化推進観光プロモーション等の地域・産業 ・観光振興事業、アイヌの人々と地域住民との交流の場の整備や高齢者のコミュニティ活動への支援、人材育成のための子どもの学習支援等のコミュニティ活動支援事業を実施しているところ。……引き続き、アイヌの人々や地域のニーズを把握し、必要額の確保に努めるとともに、交付金事業を新規に開始する市町村の開拓、市町村の連携促進が重要であると考えられる。〉(p32)
法改正しないことに対するアイヌ政策検討市民会議のコメント
内閣総理大臣認定自治体数(37市町村)の全国の市区町村数に対する割合はわずか2%、北海道島に限っても20%に過ぎません。声を上げにくい立場におかれたマイノリティに対する積極的格差是正措置(アファーマティブ・アクション)としては、看過できない低調さです。
各地在住のアイヌ民族を主体と認めず、施策実施は市町村の気分次第、という迂遠なシステム自体の成否をまずは検証すべきでしたが、政府は検討課題(p11)にすら、含めませんでした。
また、政府の言う〈アイヌの人々と地域住民との交流〉とは、いったい何を目指したものでしょう? 先住民族の諸権利を政府が承認も保障もせず、いわば「諸権利を収奪したままのアイヌ民族」を地域住民(和人)と交流させる政策は、かえって同化を促進しないでしょうか。
●アイヌ政策検討市民会議がといただしていた問題点3
アイヌ民族への同化政策をはじめとする明治期以来の歴史的不正義を明示し、その反省に立ったものにはなっていないこと。
法改正を要しないとした「政府の5年後検討結果」
(この指摘に関する記述は見当たりません)
法改正しないことに対するアイヌ政策検討市民会議のコメント
「5年後検討結果」は、「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」報告書(2009年)を一部引用していますが、報告書の根幹とも言える歴史認識のパートには、決して近寄ろうとしません。市民会議提言から、以下を再度掲載します。
〈「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」が2009(平成21)年にまとめた報告書も「明治に入ってから、和人が大規模に北海道へ移住し、近代国家形成過程の土地、同化政策によってアイヌの文化は深刻な打撃を受け、貧窮を余儀なくされた。道内居住者の生活状況や進学率は改善されてきたが、道民や国民全体との格差は残っている。道外の状況は十分に把握されておらず、生活向上関連施策もない」と、踏み込み不足は否めないものの、アイヌ民族に対する日本の「歴史的不正義」に言及しております。/にもかかわらず、現行の推進法は、アイヌ民族に対する歴史的不正義にいっさい触れず、国家による謝罪や賠償をうながすこともしていません。推進法施行後、「アイヌ利権」なるヘイトスピーチが横行しているのはそのせいです。これが、私たちがこの法律を「良し」とできない大きな理由です。〉
●アイヌ政策検討市民会議がといただしていた問題点4
2007年の「先住民族の権利に関する国連宣言」や国連の「自由権規約」など国際法や国際的な流れに沿った法律になっていないこと。
法改正しないことに対するアイヌ政策検討市民会議のコメントは、問題点1に準じます。
●アイヌ政策検討市民会議がといただしていた問題点5
差別禁止をうたいながら、罰則規定を欠くこと。
法改正を要しないとした「政府の5年後検討結果」
〈アイヌ施策推進法第4条に規定されている差別禁止規定に対する罰則規定の創設については、
アイヌ施策推進法制定時における整理と同様に、刑法において既に名誉毀損罪や侮辱罪が存在しており……罰則規定を設ける場合には、罰則の対象となる行為(態度や程度)と科される罰を明確にする必要があるが、差別には様々な形態がありこれらの基準を厳密に定義することは非常に困難であること等の観点から、困難である。〉(p23)
法改正しないことに対するアイヌ政策検討市民会議のコメント
現行制度下で防ぎきれない差別行為の存在を認め、問題意識は示しているものの、この結論では、事実上さじを投げているとしか見えません。アイヌ施策推進法が施行されて以降も、世界中で人種主義・植民地主義に根ざすヘイトクライム(とりわけ人種・民族・宗教・セクシュアリティなどに対する偏見や差別に基づく「憎悪犯罪」)が多発しており、もっか最優先で向き合うべき人権課題といっても過言ではないでしょう。「困難である」と片付けてしまわず、むしろ対策推進の動機とすべきです。
●アイヌ政策検討市民会議がといただしていた問題点6
不当に墳墓から持ち出されたアイヌ民族の遺骨返還に向けた責務・義務に触れられていないこと。
法改正を要しないとした「政府の5年後検討結果」
〈引き続き、基本方針等に基づき、関係省庁や地域と連携しながら、国内(大学・博物館)及び民族共生象徴空間(ウポポイ)に保管されている遺骨等の地域返還に取り組んでいく。〉(p27)
法改正しないことに対するアイヌ政策検討市民会議のコメント
3ページあまりを費やして従来の取り組みと実績が記述されていますが、ごく低い返還率(6%)に対する評価はありません。大学などの加害責任を問わず、被害者側の返還請求に適格者条件を課したうえ、公的な費用支援規定すらない現行の返還ガイドラインの欠陥を、政府は放置したままです。〈持ち出された遺骨の当事者への返還は、国連権利宣言でも求められている重要事項でありながら、推進法には遺骨収集の歴史的経緯やそれに対する反省、さらには返還の責務・義務に関して何も触れられてはおりません〉(市民会議提言)との指摘を、繰り返さざるを得ません。
以上
