2020年8月19日
北海道知事 鈴木 直道 様
紋別アイヌ協会 会長 畠山 敏
アイヌ政策検討市民会議(代表 丸山 博)
北海道知事への要望書
紋別アイヌ協会(会長 畠山敏)は、主催するカムイチェプノミ(新しいサケを迎えるアイヌ伝統儀式)に際して、一昨年(2018年)には警察によってサケの捕獲を事前に阻止され、不完全な形で儀式を行うことを強いられました。昨年(2019年)は、道職員が現場で儀式の妨害をするとともに警察に告発、サケ捕獲に関わった3名は、警察による長時間に及ぶ事情聴取を余儀なくされ、不起訴処分となったものの長期に渡って心理的・精神的苦痛を受けました。
紋別アイヌ協会では、昨年(2019年)のカムイチェプノミを実施する前に、7月31日付で北海道知事宛に①カムイチェプノミを警察力で妨害することを今後行わないこと、②北海道知事が率先して従前の規則やその運用を見直すこと、を要望するとともに、儀式の実施とその日程をあらかじめ伝えていました。
しかしながら、8月9日付の道知事からの回答では、カムイチェプノミを妨害する意図はないとしながらも、従来通りの許可申請を求めるのみで歩み寄りの姿勢をみせず、知事との面談の要望も聞き入れられませんでした。結果、道は上記①の要望を無視する形で警察に告発し、カムイチェプノミの実施を妨害しました。
昨年新たに制定された「アイヌ施策推進法」の付帯決議においては、「内水面におけるさけの採捕や国有林野における林産物の採取といった本法の特例措置に関し、アイヌにおいて継承されてきた儀式の保存又は継承等を事業の目的とする趣旨に鑑み、関係機関と緊密な連携の下、アイヌの人々の視点に立ち、制度の円滑な運用に努めること。」とあります。これまでの道の対応は、こうした法の趣旨にも反するものです。
私たちは北海道知事に改めて、以下のことを要望します。
2020年8月末日
北海道知事 鈴木直道様 /北海道議会議員各位
アイヌ政策検討市民会議
北海道と日本政府、国際社会とのギャップ
7月12日、国の肝入りで民族共生象徴空間ウポポイが白老に誕生し、アイヌ文化が北海道のツーリズムに寄与することが期待され、メディアの注目を集めています。他方、アイヌ文化の重要な儀式カムイチェプノミに不可欠のサケ漁は、北海道内水面漁業調整規則の下、1980年代以来、北海道知事に許可申請をするようアイヌに求めています。昨年北海道は、警察権力をつかって紋別アイヌ協会畠山敏会長とその支援者を「密漁」のかどで告発したものの、旭川地方検察庁は今年6月不起訴としました。国がウポポイを通してアイヌ文化の国内外への発信を図るなかで、北海道がアイヌ文化の重要な儀式カムイチェプノミのサケ漁で畠山会長らを起訴すれば、国の体面を損ない、市民社会や国際社会からも反発を受けることは必至だったと考えられます。
(この続きはPDFファイルをダウンロードしてお読みください)
日時)2019年9月15日 午後4時~
場所)さっぽろ自由学校「遊」(アイヌ政策検討市民会議事務局)
札幌市中央区南1条西5丁目愛生舘ビル5F
TEL.011-252-6752 FAX.011-252-6751
2019年9月9日
アイヌ政策検討市民会議
2019年4月26日「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(以下、アイヌ施策推進法)が施行されました。畠山敏紋別アイヌ協会長(以下、畠山エカシ)は、法律制定以前、7回も東京に出向いて内閣府のアイヌ政策担当参事官と会談を重ね、その後、参事官が紋別の畠山エカシを訪れる中、紋別をアイヌのサケ漁の特区とすることが示唆されました。そのことを念頭に、紋別アイヌ協会は、カムイチェップノミに捧げるサケの採捕の規則や運用の見直しについて、7月19日、北海道職員との会談で要請したものの埒が明かず、同31日、北海道知事に文書で要請しました。しかし、北海道知事は、8月9日、一方的に今年も「北海道内水面漁業調整規則52条により従前どおり特別採捕の許可をとるよう」紋別アイヌ協会に通知してきました。
紋別アイヌ協会は、したがって、9月1日のカムイチェップノミの日に、依然としてアイヌのサケ漁が北海道の規則によって規制され、アイヌが自らの意志で自らの文化を享受できない実態を訴えるため、あえて北海道に許可申請せずサケを採捕しました。現場には道職員が二人駆けつけ、畠山エカシに向かって大声で「違法だからやめるよう」繰り返し叫んでいました。川岸で見守っていた平取町の木村エカシと貝澤エカシがたまらず、「違法というが、それは誰が作った法律なんだ。北海道にあとから勝手に入っておきながら何をいうのだ」と諭すと、道職員は反論できず、口を閉ざしました。とはいえ、北海道は直ちに北海道内水面漁業調整規則52条に基づき畠山敏エカシを警察に告発し、9月5日、警察が畠山エカシを紋別警察署に連行して取り調べを行うという異常な事態に至りました。
先住民族の人権は、国際社会では、国際人権規約、ILO169号条約、人種差別撤廃条約、先住民族の権利に関する国連宣言などによって保障されています。先住民族の漁業権に限っていえば、たとえば、世界人権宣言とともに国際人権章典と呼ばれる国際人権規約において、自由権規約27条と一般的意見23及び社会権規約15条1(a)と 一般的意見21によって、文化享有権の一部として保障されています。また人種差別撤廃条約の一般的勧告23においても然りです。いずれも法的拘束力を有するため、日本を含む締約国には先住民族の文化享有権の保障と促進のために立法などによって是正措置を採ることが義務付けられます。これら一般的意見や一般的勧告は、たとえば、締約国に対し先住民族に関する政策決定の際に当事者からの事前の同意を求めています。上記のエカシの発言は北海道内水面漁業調整規則52条のアイヌの特別採捕の規定がアイヌの同意を得ていないことを明らかにするものです。こうした人権侵害について、日本政府は、国際人権規約や国際人権条約などの監視機関から再三にわたり人権状況の是正勧告を受けながら、日本の植民政策によって奪われたアイヌ民族の文化享有権はもとより、自己決定権、土地や資源への権利の回復についても立法化に向けての議論すら行っていません。
畠山さんの行動は、上記の国際人権法のみならず、次の二風谷ダム裁判判決の一節のように日本国憲法13条からも、正当性が裏付けられています。「少数民族にとって民族固有の文化は、多数民族に同化せず、その民族性を維持する本質的なものであるから、その民族に属する個人にとって、民族固有の文化を享有する権利は、自己の人格的生存に必要な権利ともいい得る重要なものであって、これを保障することは、個人を実質的に尊重することに当たるとともに、多数者が社会的弱者についてその立場を理解し尊重しようとする民主主義の理念にかなうものと考えられる」。こうしてアイヌの文化享有権は、今日のアイヌ政策に規定されていないとはいえ、国際人権法および日本国憲法によって保障されており、最高法規と条約及び国際法規の遵守をうたった憲法98条に照らして、北海道内水面漁業調整規則52条によって畠山エカシを犯罪者扱いすることは人権侵害以外の何物でもありません。北海道知事は畠山エカシの問題提起を真摯に受け止め、畠山エカシへの告発を直ちに取り下げるとともに、当該アイヌ団体との対等な協議の場を設け、アイヌに課しているサケの採捕の許可制を廃止しアイヌのサケの捕獲にクオータ制を導入するなど北海道内水面漁業規則を一部改正し、アイヌの漁業権を保障する是正措置を採るべきだと考えます。
2019年9月7日、アイヌ政策検討市民会議報告集会で採択。
紋別アイヌ協会からの北海道知事あて要望書(2019年7月31日付け、下記)に対し、北海道知事から同協会に届いた同8月9日付けの回答書です。
「儀式の実施に関連してモベツ川でサケマスを採捕する場合には、事前に北海道内水面漁業調整規則第52条に規定する特別採捕許可を申請願います」「「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」が本年5月に施行されましたが、上述した法令の規定は従来どおりですので、河川でサケマスを採捕しようとする場合には必要な手続きをお願いします。」などとあります。
参考 北海道内水面漁業調整規則(昭和39年11月12日、規則第133号)<<北海道総務部法務・法人局法制文書課「北海道例規類集」
2019年7月31日
北海道知事 鈴木直道 様
紋別アイヌ協会 会長 畠山 敏
094-0023 北海道紋別市元紋別6-3
電話・FAX 0158-23-9025
モベツ川での祭事用サケ捕獲についての要望
わたくしども紋別アイヌ協会は、昨秋、恒例のカムイチェプノミ(新しい鮭を迎える儀式)のために、地元のモベツ(藻鼈)川でサケを捕獲しようとしたところを、北海道警察によって妨害され、目的を果たせませんでした。先住民族であるわたしどもにとって、屈辱的な行政の仕打ちであり、アイヌとしての誇りは深く傷つきました。二度とこのようなことのないよう、下記について強く要望します。
記
当協会は今年も8月31日、9月1日の日程で儀式を執りおこないます。つきましては、上記2点につき、8月20日までにご回答くださいますようお願い申し上げます。
紋別アイヌ協会の要望について、次の方々も賛同しています。
モシㇼ・コㇽ・カムイの会、さっぽろ自由学校「遊」
9月1日、畠山敏エカシがカムイチェップ・ノミ(アイヌ民族のサケを迎える儀式)のために藻別川でサケを獲ろうとしたところ、「道の許可をとっていないから違法である」として紋別警察に止められました。その「事件」はNHKとHTBによって報道されましたが、市民会議としてはアイヌ政策にかかわる重要な問題提起として受けとめ、当事者の畠山エカシにその経緯を直接お話しいただきたいと思い、以下の緊急集会への参加を呼びかけます。よろしくお願いいたします。
日 時 9月16日(日) 13:00~15:30
会 場 かでる2・7 5階510会議室 (札幌市中央区北2条西7丁目)
参加費 500円 ※直接会場にて受け付けます。
報 告 畠山敏さん(紋別アイヌ協会会長) ほか
主 催 アイヌ政策検討市民会議(世話人代表:丸山博)
連絡先:TEL.011-252-6752(さっぽろ自由学校「遊」・小泉)
Presented by Satoshi Hatakeyama, the president of Monbetsu Ainu Association, at the session of International conference on policy towards indigenous peoples, December 4, 2017, at Hokkaido University in Sapporo, Japan.
「先住民族政策に関する国際学術会議」(2017年12月4日、札幌)における畠山敏・紋別アイヌ協会会長の講演から。