北大教授差別発言への要望書

2023年2月10日

 

北海道大学総長  寳金清博 様

北海道大学アイヌ共生推進本部長 山本文彦 様

 

アイヌ政策検討市民会議(代表 ジェフ・ゲーマン)

〒060-0061 札幌市中央区南1条西5丁目

愛生舘ビル6F NPO法人さっぽろ自由学校「遊」気付

https://ainupolicy.jimdofree.com

 

貴大学総長名で公表された一文「本学教員による不適切なSNS投稿について」(2022年1月20日づけ)に、この投稿による直接的な被害者はもとより、市民社会は大きなショックを受けています。貴大学教授(しかも貴大学の部局執行部にある教授)が〈先住民族であるアイヌ民族をはじめとする民族的マイノリティに関する不適切な発言や、排外主義的な発言を繰り返していた〉事実に呆然とさせられただけではありません。貴大学が〈ダイバーシティ・インクルージョン推進本部、アイヌ共生推進本部を設置し、差別や偏見を乗り越えたバイアスフリーキャンパスを実現するため、本学所属の教員・職員・学生に対する啓発プログラムも推進〉していたにもかかわらず、もっとも高い倫理観を期待される立場の教授がヘイトスピーチに走るのを予防できなかったことに、失望と反発が広がっているのです。

 

北海道大学「本学教員による不適切なSNS投稿について」

https://www.hokudai.ac.jp/news/2023/01/post-1158.html

 

貴大学の教職員や学生のみなさまもさぞ無念でしょう。〈すべての大学構成員ひとりひとりが、他者への理解を深め、自らの無意識の差別や偏見に気づき、多様性を受容し包摂する豊かな人間性と高い知性を育み、各々の能力を最大限に発揮することが大切〉とうたう「北海道大学ダイバーシティ&インクルージョン推進宣言(以下D&I推進宣言)」(2021年12月)は、踏みにじられてしまいました。

 

北海道大学「ダイバーシティ&インクルージョン推進宣言」

https://diversity.synfoster.hokudai.ac.jp/statement/

 

わたしたちアイヌ政策検討市民会議は2016年春の設立以降、アイヌ/非アイヌがともに参加し、時間をかけて何度も繰り返し議論し合える場を設けて、UNDRIP(先住民族の権利に関する国際連合宣言、2007年)などの国際的基準に合致する新たなアイヌ政策の提案を試みています。その会合では、公開であれ非公開であれ、アイヌ/非アイヌとも、一人ひとり多様な意見が飛び交いますが、じかに対話することで得られるものは少なくありません。たとえば、自分の思い込みや偏見に気づかされたり、自分とは異なる価値観を発見したり、といったことです。

 

貴大学(とりわけ医学部や本部)は1980年代から2010年代にかけて、「多様性にひらかれた教育・研究環境」(D&I推進宣言)とは真逆に、学外のアイヌとの対話窓口を極端に狭め、特定のアイヌ団体を通じてしか、アイヌの声を聞こうとしませんでした。拒絶された側は不信感を募らせ、攻撃的になりがちです。すると、それを受ける側も防衛に努めざるを得なくなります。これでは信頼関係の醸成は不可能でしょう。

 

人がレイシズムに呑み込まれるのは、無知と、根拠のない不信のせいです。一人でも友人がいれば、その属する民族を罵倒できるはずがありません。当該教授にアイヌの友人はいたのでしょうか?

 

貴大学既存の「啓発プログラム」などは、残念ながら、学内のレイシズムの芽を摘めませんでした。わたしたちは、貴学が地元の先住民族アイヌとの対話の場をまずは設ける(常設する)ことが、無知と不信感を払底し、ひいては「多様性にひらかれた教育・研究環境」を実現する近道だと確信しています。わたしたち市民会議に参加するアイヌ民族も、貴大学、とりわけ大学の運営、将来方針を担う総長、アイヌ共生推進本部長との建設的な対話を切望しています。

 

議論したいことは、(総長の回答文書では、)当該教授が何らの反省もしていない可能性も充分にあるので、こうしたヘイトスピーチを現実的に防止するために、また北大構成員の先住民族に関する意識を高めるために、――短時間のオンライン・スクーリングにとどまらず――本件に即して具体的に貴大学はどのような具体的措置を採るのか、をまず中心的に対話させていただきます(このような事件が起きた以上、貴大学の責任の下で、本人に事情説明をさせて、謝罪の弁をとらせるのも当然かと思いますが、回答文書では何も記されていませんので、更なる措置が採られるべきだと考えています。特に同教授は北大部局の執行部のメンバーでもあるようで、問題は深刻です)。

 

貴大学には、かつてのアイヌ墓地発掘と遺骨・副葬品収集の問題について、「大学はアイヌ民族に公式に謝罪すべき」と要望する教員有志たちがいます。こうした変化に、わたしたちは期待しています。思い起こすと、2012年2月に城野口ユリフチや小川隆吉エカシ・清水裕二エカシは、遺骨返還に向けた建設的な討議を求めて、浦河など各地から貴大学本部に赴きましたが、雪の降りしきる玄関先で警備員や事務職員に阻まれ、文字通り門前払いにされました(その後、ユリフチと隆吉エカシは病を得て亡くなりました)。先住民族問題に世界の関心が高まる中、最高学府として常識的にはあり得ない冷淡さです。もし貴大学が誠実に対応していたら、その後数次にわたる遺骨返還請求訴訟などもなかったかもしれません。今回はこの問題は直接的には論じませんが、こうしたことなども、アイヌ民族の貴大学への不信感につながっていると、どうぞ自省ください。

 

今回の事件を、どうか教訓にしてください。UNDRIPが明記する先住民族の諸権利を尊重し、地元の先住民族アイヌとのより深い関与を図る北海道大学の姿をこそ、私たちは望んでやみません。対話の場を設けていただける可能性があるのかどうか、いずれの場合でも2月末までにご回答いただければと思います。

 

当市民会議事務局の小泉雅弘までご連絡ください。