2.18集会アピール
「 歴史をねじ曲げて 今、アイヌ民族政策が作られようとしている ! 」
この危機感を共有する私たちは、全国・全道から結集し、丸山博さんの講演(「アイヌ政策を蝕む『研究者』たちーなぜ、研究者の不正がゆるされるのか?」)や平山裕人さん、瀧澤正さんの報告を受け、参加者での真摯な意見交流を行った。そして、アイヌ民族の先住権を否定する民族差別政策の現状を確認し、このような動向を断じて許さないとともに、連帯・共生の社会実現のためにいっそう奮闘することを誓い合った。
2016年7月28日、アイヌ文化振興・研究推進機構が主催した「アイヌ文化普及啓発セミナー」で、落合研一北大准教授は、「先住民族は何に『先住』していた『民族』か?国家とは何か?」のテーマのもと講演を行った。その内容は、歴史事実の誤りだけではなく、当時の国家・政府の立場に立つ歴史認識においても、極めて問題に満ちたものであり、徹頭徹尾アイヌ民族への差別意識に貫かれた許されないものであることが本集会を通してもいっそう明らかになった。
落合准教授の講演に参加したアイヌ民族からは民族に対する侮辱であるとの指摘がなされ、札幌アイヌ協会や丸山博ウプサラ大学名誉博士、教科書のアイヌ民族記述を考える会、アイヌ民族団体・有志連絡会からも意見書、抗議並びに申し入れ、公開質問状が提出されてきた。また、北大教授会の場においても講演の問題性と責任を追及する声が上がり始めている。しかし、落合准教授は、札幌アイヌ協会の質問には言い訳程度の「回答」はしたが、その他の質問や追及には無視を決め込んだままである。加えて、私たちの抗議や質問にふたをしようとする動きもあることに怒りを禁じえない。
そもそも、落合准教授の講演は、教科書のアイヌ民族記述を考える会の「質問」(2016年11月17日)が問題点を28項目にもわたって指摘したように全くずさんなものである。さらに、単なる認識不足を越えた彼の差別性は、講演の各所ににじみ出ており許されるものではない。
たとえば、アイヌ民族の土地であるアイヌモシリを明治政府がアイヌに断りなく一方的に「北海道」と名付け、全ての土地を「無主の土地」と決めつけて奪い、一連の土地関連法により国家や本州からの移民・大資本の所有地としたことについて、「(和人とアイヌの)どちらにも土地の所有権を設定するから、ここの土地は私の土地ですよと設定しに来なさいよと言っているわけですが、アイヌの人々にはその概念がわからないんですよね。」と語り、土地を失った責任をアイヌ民族の能力不足とし、植民地化に至っては「(近代)国家が成立した時にさりげなく北海道までいれてしまった」としたこと。また、葬送の家焼きの伝統儀式(カソマンデ)に対しては、明治政府の言を借りた態をとって「人が死ぬたんびに家燃やすなんてアホじゃねえのか」と放言。さらに、法制度自体が歴史的不正義であり、アイヌ民族からも「屈辱的なアイヌ民族差別法」と指摘される「北海道旧土人保護法」の解説で「元々のねらいは、土地を与え、社会保障的な役割もセットになっていたことを、是非ご理解いただきたい。(アイヌの人々を)救済しようと試みたが、結果的には成果が出なかった。」と述べて、平然と正当化しているなど問題点は枚挙にいとまがない。講演は、まさに民族差別の拡大再生産を煽るものでしかないといわざるを得ない。
私たちは、落合准教授が、北大アイヌ先住民研究センターに在職し、政府のアイヌ政策推進作業部会の座長も務めている事実を断じて見逃すことはできない。それは、彼のアイヌ民族やアイヌ史への認識が、政府の「有識者懇談会」の歴史観に裏付けられているからである。北大アイヌ先住民研究センター長であり、「有識者懇談会」の要職にある常本北大教授は、2016年11月5日の朝日新聞紙上で「米国や豪州などで語られる『土地の返還』『政治的な自決権』といった先住民族の権利実現を直ちに目指すのは今のアイヌと日本の現実になじむでしょうか。」と述べた。これはアイヌ民族の権利回復を「文化」だけに限定する「有識者懇」の認識を象徴するものであり、アイヌ民族を世界の先住民族と分断し、その権利を切り縮めるものである。こうした認識が必然的に落合差別講演を生み出したといっても過言ではない。それだけに、落合講演を黙認している北大法学部・北大アイヌ先住民研究センター、そして主催団体のアイヌ文化振興・研究推進機構の責任もまた大きい。
北大法学部では、落合准教授が2017年度前期講義で「先住民法」を担当する方向だという。多くのアイヌ民族団体・市民の批判に答えないままに、この決定がなされたなら、北大に対する社会の信頼を大きく裏切るものである。
2012年のアイヌ民族副読本書きかえ問題、2015年の日本文教出版のアイヌ民族記述検定問題、そして今回の落合准教授差別講演問題と続く流れは、まさしく「有識者懇談会」の歴史観を徹底化する一連の動きであるといえる。政府や北海道庁は2018年に迎える「明治150年」「北海道150年」の事業を進めているが、この中で、日本近代のアイヌモシリから始まるアジアへの侵略加害の歴史事実は葬り去られている。アイヌ民族に対しては、国際的に認知された先住権を否定し、落合講演に象徴されるように「開拓」=植民地政策を肯定し、アイヌ民族の最終的な同化を完了しようとする姿勢を感じざるを得ない。
私たちは集会参加者の総意として次のことを強く求めるものである。
一. 落合准教授は、教科書のアイヌ民族記述を考える会やアイヌ民族・有志連絡会からの質問を無視することなく、早急かつ誠実に回答すること。
二. 落合講演を主催したアイヌ文化振興・研究推進機構は、問題を自覚し、「平成28年度アイヌ文化普及啓発セミナー報告書」には講演内容を掲載しないこと。
以上。
2017年2月18日
歴史をねじ曲げて今、アイヌ民族政策が作られようとしている!
北海道大学アイヌ先住民研究センター落合研一准教授の講演に抗議する集会 参加者一同
市民集会「歴史をねじ曲げて今、アイヌ民族政策が作られようとしている!」開催概要
【日時】2017年2月18日(土)pm.6:00〜8:30
【会場】かでる2・7、710会議室(札幌市中央区北2西7)
【資料代】500円
【主催】教科書のアイヌ民族記述を考える会 ainukijutsu@yahoo.co.jp
【後援】アイヌ民族団体・有志連絡会、アイヌ政策検討市民会議
【講演】「アイヌ政策を蝕む「研究者」たち──なぜ、研究者の不正が許されるのか?」丸山博(スウェーデン・ウプサラ大学名誉博士・客員教授、室蘭工大名誉教授)
【報告1】「誤りだらけの落合講演」平山裕人
【報告2】「明治政府は、落合氏が言うように、和人とアイヌを平等に扱ったか」瀧澤正
【特別報告】アイヌ民族団体・有志連絡会より
昨年7月28日、アイヌ文化振興財団主催「アイヌ文化普及啓発セミナー」で落合研一氏(北大アイヌ・先住民研究センター准教授)が「先住民族は何に『先住』していた『民族』か?国家とは何か?」という講演をしました。しかし、その内容に歴史的事実の誤りや、差別的表現が多いことに私たちは強い危惧の念を持ちました。
一例をあげると、明治政府が法律の制定によりアイヌの土地を取り上げた事実について「和人であってもアイヌであっても同じ平民だから、どちらにも土地の所有権を設定するから、ここの土地は私の土地ですよと設定しに来なさいよと言っているわけですが、アイヌの人々にはその概念が解らないんですよね」と述べて、当時、アイヌ民族が説明なしに土地を追われたことを正当化しているのです。
そこで、私たちは問題のある28項目について質問状を送付し説明を求めましたが、未だ回答はありません。落合准教授は政府のアイヌ政策の一つの部会の座長を務めています。つまり、このような誤った視点が、現在進められているアイヌ民族政策の根幹に据えられていることを、私たちは見過ごすことはできません。
新着資料(2022/10/19)
「歴史をねじ曲げて今、アイヌ民族政策が作られようとしている!
2017年2月18日 北海道大学アイヌ・先住民研究センター落合研一准教授の講演に抗議する集会報告集」
発行者 教科書のアイヌ民族記述を考える会
発行日 2017年6月8日
表紙のアイヌ文様 光野智子「カムイピリマ 」― 神がそっと教えてくれる ―
表紙デザイン 佐々木洋子