国際連合EMRIPに対する北海道アイヌの声明(2020/11/30)

国際連合・人権高等弁務官事務所(OHCHR)が、2020年12月1日(日本時間午後5時〜)にオンラインで開催する「先住民族の権利に関する専門家機構 Expert Mechanism on the Rights of Indigenous Peoples(EMRIP)」第13回アジア・太平洋地区会合に合わせ、木村二三夫・平取アイヌ遺骨を考える会共同代表が同機構に提出/受理された声明文を掲載します。平取アイヌ遺骨を考える会のほか、「アイヌ(=ひと)の権利をめざす会」「アイヌ政策検討市民会議」「さっぽろ自由学校「遊」」が共同提出者に名前を連ねています。(2020/11/30、2020/12/02)


EMRIP声明:2020/11/30版(日本語最終版)

 

北海道アイヌの声明

 

木村二三夫 平取アイヌ遺骨を考える会 共同代表

共同宣言:平取アイヌ遺骨を考える会、アイヌ(=ひと)の権利をめざす会、アイヌ政策検討市民会議、さっぽろ自由学校「遊」

 

イランカラプテ。私は木村二三夫、アイヌモシㇼ(北海道)、沙流川流域・平取で生まれ育ったアイヌです。きょうは発言の機会をいただき、ありがとうございます。

 

北海道は近年、観光産業への依存度を高めています。covid-19感染拡大防止のための旅行制限の長期化によって、零細な観光関連産業に従事する多くの同胞が、深刻な経済的影響を受けています。さらに、アイヌ民族の権利に関わる重大な局面を迎えているにもかかわらず、重要なアイヌ民族の課題に関する議論がコミュニティ内外で滞っています。

 

さて、アイヌ民族は、約150年前、南方から移住した日本人により、大地、人権、尊厳、文化、言語を奪われました。(植民地政策の中、)祖父母や父母たちは移住を強制され、あるいは意に反して同化を強いられました。国家による歴史的不正義を、私は決して許せません。

 

UNDRIP採択後の2008年、日本政府はようやくアイヌ民族を先住民族と認定しました。しかし、最近(2019年)採択されたアイヌ施策推進法には、UNDRIP(国連先住民族権利宣言)に規定された先住権は何一つ保障されていません。他方、日本人によるアイヌ差別はなお解消されず、サイバー空間でむしろ活性化しています。

 

人道に最も反する案件のひとつが、私が取り組む遺骨問題です。1880年代からおよそ100年間、日本の研究者たちは、各地のアイヌ墓地を暴くなどして2000体に近い遺骨を持ち去り続けました。日本政府はわずかな数の遺骨の返還を始めましたが、その効果は限定的です。なぜなら返還のほとんどは、アイヌ自身による訴訟の結果実現したもので、政府の返還に関するガイドラインでは祭祀継承者の申請手続きが大きな負担になっています。当事者である大学からは、そんな先人たちや私たちのコミュニティに対し、いかなる謝罪の言葉もありません。問いたいことは、加害者はだれ? 被害者はだれ?ということです。たとえ、返還が成し遂げられたとしても、私の怒りは収まりません。

 

さらなる問題は、返還されない遺骨が、白老にあるウポポイに建設された「慰霊施設」に集められていることです。政府はそこで「尊厳ある慰霊をする」といっていますが、有力な科学者たちは「施設に集めた遺骨を研究利用したい」と公言しています。これらの研究者や日本政府は、UNDRIP第12条を明らかに無視していますし、いかなるアイヌもこうした政府の政策を心から受け入れている者はいません。

 

昨年、もうひとつの事件が起きました。北海道政府は、紋別アイヌ協会の3名の会員が伝統的な文化行事にために鮭を採捕したことを「密漁」として、刑事告発しました。半年後に不起訴になりましたが、何度も警察の取り調べを受けた同協会会長の畠山敏エカシは、今年2月に脳梗塞で倒れ、現在も入院中です。畠山エカシが、健康なら、きょう、私の隣で一緒に証言をする予定でした。

 

この夏には、島の南東部にあるラポロアイヌネイションが、川サケ漁に関する集団的漁業権の確認を求めて、初めて司法に訴えました。

 

この状況は私たちが持つ歴史的権利の封殺で、日本はそれを依然として継続しようとしています。日本政府による深刻な人権侵害に関する私の事例報告が、国連が促進する先住民族の権利の前進に貢献することを、アイヌ民族として期待しています。イヤイライケレ。

 

Photo : Hirata Tsuyoshi

 


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Statement in English
Kimura Statement to 13th EMRIP 1102 Engl
PDFファイル 406.3 KB

【解説】専門家機構について

 

2020年12月1日、さっぽろ自由学校「遊」における記者会見

文責:ジェフ ゲーマン(北海道大学大学院 教授)

jeffry.gayman[AT]imc.hokudai.ac.jp

 

背景

 

国連では、人間個人、集団としての人権を保護するための様々な取り組みが存在する。

 

目的

 

本日、欧州で行われている会議の目的を明らかにし、それをした上での木村二三夫さんの発表の意義を検討する。

 

先住民族の権利問題に関連する国際的な法規、国連の組織

 

人権保護は国連の一つの重要な使命である。そのために、国際人権水準となる条約、法規、それらの遵守を監視し、実践を促す勧告を出す委員会が設けられ、日本が批准しており、幅広く目指される人権の水準を訴えている、例えば、自由権規約I、自由権規約II、差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、子供の権利条約等の定期的なチェックを9つの委員会が行っている。

 

普遍的定期審査(Universal periodic review)というプロセスでは委員会の誘いに応じ、人権が脅かされている当事者たちが各国の指定団体の協力を得ながら、レポートを提出したり、ジュネーブやニューヨークで開催される会議で当事者たちが声明文を発表したりするという形で証言を提示し、それを受けて委員会により人権保護の度合いは確認され、改善に向けた勧告は出される仕組みになっている。

 

北海道アイヌ協会やその前身の北海道ウタリ協会は市民外交センター等の協力を得て、1980年代からこれらの会議に代表を送り、日本国内の人権の現状を報告し、国際社会にその改善を訴えてきた。主に発表がされる場として、先住民族の権利と関係が深い、自由権規約、差別撤廃条約、人権理事会の会議があげられる。

 

また、この委員会制度とは別に、訪問により、各国の人権状況を綿密に調査し、報告を人権理事会にする「特別報告者」制度や、各国を訪問する専門家機構があります。

 

Expert Mechanism on the Rights of Indigenous Peoples (=EMRIP、先住民族問題に関する専門家機構)

 

今回木村さんが発表を目指していた先住民族問題に関する専門家機構(略してエムリップという)は、2008年の先住民族の権利に関する国連宣言(UNDRIP)の制定を受けて設けられた、7人による人権理事会の顧問組織であり、理事会に専門的な知見を提供するほか、締約国に対し、UNDRIPの実現についての助言や知識提供をすることを使命としている。

 

活動内容として、1)自己決定や自由かつ十分な情報に基づいた事前の情報(Free Prior and Informed Consent=FPIC、フィピック)といった原理が実践においてどのような意義や課題をはらんでいるかを調査検討し、先住民族関連の人権の課題や良い実践例(ベスト・プラクティス)を調査したり、2)法律、政策、施策のそれぞれのレベルにおいて、国家が実践し得ることに対する助言を与えたりする。

 

4~5日をかけて、毎日行われる年度会議等、あるいはレポートの募集を通じて、先住民族問題に関する様々な声明文や、年度報告を出している。そのテーマは先住民族の教育や文化伝承、言語維持と復興から、健康、ビジネスおよび金融へのアクセス、賠償と和解、国境と強制移住、遺骨返還までと幅広く、先住民族の個人と集団の生活に関連するありとあらゆる側面に及んでいる。

 

また、2)に関しては、国訪問というプロセスで、現地へ行って、調査の上、その国の法律内で実践するための助言を行うこともあり、今回の木村さんの発表は1)の範疇に入るが、将来的に2)の実現も考えられ、望ましい。

 

今回の会議について

 

今回の13回目の年度会議はコロナウイルスの影響のため、6月の会議開催が中止となったことを受けて、11月28日~12月4日まで延期し、コロナ禍をテーマとしている。

 

我々が把握している限り、今回の会議に発表の機会をのぞんでいたのは、木村さんを代表とする連名のアイヌ支援団体と、琉球民族を代表する団体の二つである。