「核のごみ」最終処分場の選定をめぐる自治体の決定に関する声明

原文2020年10月5日

一部改訂2020年10月10日

寿都町長 片岡春雄様

神恵内村長 高橋昌幸様

 

 

 

アイヌ政策検討市民会議

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センター

カトリック札幌教区正義と平和協議会

北海道宗教者平和協議会

  

寿都町および神恵内村は、「人口減で低迷する地元経済を立て直すためには更なる交付金が必要」との理由から、それぞれ、10月8日、国の「核のごみ」最終処分場選定プロセスへの応募に踏み切ると報じられています。いずれも、町民に加えて近隣自治体の首長や北海道知事からの反対意見を無視し、自らの住民集会や議会における異論も熟慮せず、議会の多数決で国による文献調査への応募を拙速に決めようとしています。

 

そもそも北海道は、夭折の天才詩人知里幸恵が『アイヌ神謡集』の冒頭、「その昔この広い北海道は私たちの先祖の自由の天地でありました」と述べているように、悠久の昔からアイヌモシリ、アイヌの土地でした。「しかし、」とアイヌの言語・文化の復興の巨人萱野茂は次のように話をつづけます。「江戸時代にシャモ(和人)が、この地に入ってくると、この恵まれた大地に住むアイヌに目をつけ、漁場の労働に強制的に連行したりしました。また、明治になると、本格的にシャモが侵入してきて、アイヌが自然の摂理に従って守っていた決まりを無視し、勝手に『法律』なるものをおしつけ、二風谷の美しい林も、『日本国』や財閥に強制的に収奪されてしまいました。」

 

こうしてアイヌを含む世界の先住民族は後からやってきた今日の国家の多数派の民族に土地、資源はもとより、同化政策の下、言語も文化も奪われ、差別と抑圧の中で社会の周辺に追いやられました。国際社会は、このような歴史的不正義を正すため、2007年9月「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を採択し、先住民族の国際人権基準を明確にし、その遵守を国に義務付けています。日本においても、国や自治体は、アイヌに関する政策や法律を決定する際、アイヌからの「自由で事前の情報に基づく同意」を保障する義務を負っています(第19条、第32条2項)。また、同宣言の第29条2項では、「国家は、先住民族の土地および領域において彼/女らの自由で事前の情報に基づく合意なしに、有害物質のいかなる貯蔵および廃棄処分が行われないことを確保するための効果的な措置をとる」と、されています。加えて、1997年8月、人権先進国のノルウェーのハラルド5世国王は、長年ノルウェー国が先住民族サーミに与えた不正義を謝罪し、「ノルウェー国はノルウェーとサーミの二つの民族の領土の上に築かれている」と述べています。このことに鑑みれば、北海道は和人とアイヌの二つの民族の歴史の上に成り立っています。したがって、今回の「核のごみ」最終処分場の選定プロセスにおいては、法的、倫理的、歴史的に、北海道の先住民族アイヌの「自由で事前の情報に基づく同意」を求めなければならないことが導かれます。

 

私たちは、町内外の反対や異論のみならず、北海道を植民地化した歴史を顧みず、先住民族アイヌの国際人権基準も考慮することなく、交付金を目当てにした寿都町および神恵内村の拙速な意思決定は、マイノリティの人権保障という世代内の平等に加えて資源・環境に関する世代間の衡平を求める現代民主主義に反するものとして、強く抗議します。