2023年1月16日
内閣総理大臣 岸田文雄様
内閣官房アイヌ総合政策室長 吉井浩様
航空自衛隊第二航空団司令空将補 柳享範様
アイヌ政策検討市民会議(代表 ジェフ・ゲーマン)
わたしたちアイヌ政策検討市民会議は、日本のアイヌ政策の問題点を広く市民社会で共有し、国や道主導のアイヌ政策から当事者アイヌの自己決定権に基づくアイヌ政策へと転換するための基盤、すなわち代替策をつくり、日本政府や国連の人権監視機関など国内外の関係諸機関に提示することを目的に活動しています。わたしたちは、航空自衛隊第二航空団空団マークにアイヌ文様が「使われている」ことについて憂慮します。
本件で問題とされているアイヌ文様などは、「伝統的知識」(traditional knowledge)ないし「先住民族知識」(Indigenous knowledge)と言われ、その関係各国が保護に努めることは、わが国も署名している 2007年の「国連の先住民族の権利に関する宣言」(UNDRIP)31条が明定するところです。また、「伝統的知識」ないし「先住民族知識」は、個人主義的な知的財産権システムと齟齬を来しているので、国際条約レベルで、すなわち、「生物多様性条約」(CBD)や「世界知的所有権機関」(WIPO)で、共同体的な先住民族の利益保護を図るべく、国際的尽力がなされているところであります。
本来であれば、アイヌ民族の伝統的知識の保護は、2019年の「アイヌ施策推進法」において規定されるべき、重要な課題でした。わたしたちはまず、アイヌ民族が文様を含めた伝統的知識、先住民族知識を自らのものとして適切に管理・運用し、そこから利益が得られるようにすべき責務が、国にあると考えます。現行の野放図なあり方をできる限り早期に是正し、遅くとも2024年の「アイヌ施策推進法」に見直しに際しては、アイヌ民族の伝統的知識の保護に関する条文が盛り込まれることを求めます。
本来、そのような立場にあるはずの国の一機関である自衛隊が、アイヌ文様を使用することは、UNDRIPの第3条の精神に違反するものです。また、近時急速に軍備拡張を続けている自衛隊に対して、アイヌ民族自体がそのシンボルの利用を認めても良いのかという、重要な問題もはらんでいます。アイヌ民族の中には、アイヌ文様が戦争利用されるものと考えるものもおり、このような人々にとって自衛隊のアイヌ文様利用は、耐え難い苦痛を与えるものです。
北海道アイヌ協会や千歳市に相談をしていることはうかがっていますが、わたしたちの身近にいるアイヌの人たちが「全く知らなかった」「相談されたという認識はない」と語るのを聞くにつけ、わたしたちは、「できる限り多くのアイヌ民族の合意形成」という最も肝心なことがおざなりにされたまま、伝統文様の使用が進められていることを危惧します。これではアイヌ民族の「自己決定の権利」がないがしろにされていると指摘せざるを得ません。
以上により、アイヌ政策検討市民会議としては、このような事態に強く反対し、実質的な意味のインフォームド・コンセントを得ていないアイヌ文様の自衛隊による利用に強く反対し、その差し止めを求めます。もし岸田政権が、このようなアイヌ文様の利用を認めるならば、その誠実な説明を求めます。