2016年8月20日
第2回アイヌ政策検討市民会議の開会にあたって
アイヌ政策検討市民会議 丸山博
アイヌ政策を先住民族政策としてとらえれば、歴史、文化、人権(権利)のすべてを含む、学際的なものとして展開されなければならない。先住民族政策は、過去の植民地主義における歴史的不正義を糺すとともに、民族的、言語的、文化的多様性を包摂する平和で民主的な社会の実現を目指し、先住民族の権利の回復をめざすものと考える。先住民族政策には、歴史的不正義と先住民族文化の特殊性すなわち土地、領土、自然資源との不可分の関係を踏まえなければならないという点において、他の少数民族政策とは違いがある。また、先住民族の権利は、人権の平等性、普遍性を踏まえて、他の民族同様自決権が与えられるわけだから、集団的権利を含むものとして考えられる。
このような先住民族政策の考え方に立てば、最近、私たちの周辺で起こっていることが整理できる。たとえば、北大の研究者によって盗掘されたアイヌ人骨の「コタンの会」への返還は、アイヌの祭祀への集団的権利が認められたといえる。これは1997年の二風谷ダム裁判でアイヌ民族の文化享有権が認められたことにつづく、画期であるといえる。いずれの裁判においても、先住民族の場合、集団的権利が保障されない限り、個人的権利は保障されないということが認められたことになる。したがって、日本政府およびそれを擁護する法学者が主張するように、日本の法体系上、人権は個人的権利を基本とするから集団的権利は認めがたいというのは間違いである。すなわち、集団的権利と個人的権利は矛盾するものではなく、相互補完的なのである。
他方、政府側も7月28日、アイヌ民族の生活・教育支援を目的とした新法の制定を検討する初めての作業部会をスタートさせた。今後、作業部会がどのような議論をするのかを、私たち市民会議は上記の先住民族政策の視点に立って監視していかなければならないと考える。第一に、歴史的不正義に関する議論が行われるかどうか、行われるとすれば、それが植民地主義への反省を伴っているかどうか、第二に、現在の欺瞞と欠陥に満ちたアイヌ文化振興法の検討が十分に行われるかどうか、行わるとすれば、文化が土地や自然資源と結びつけられたものとして理解されるかどうか、第三に、国連の人権委員会や人種差別撤廃委員会などの人権監視委員会が日本政府に先住民族としてのアイヌの権利を認めるよう勧告した最終所見について議論されるかどうか、である。
本日は世界的に著名なオーストラリア国立大学のテッサ・モリス・スズキ教授(日本近現代史)と台湾の若手研究者、台湾政治大学の藍適齊先生(台湾現代史)からそれぞれメッセージをいただくとともに、日本近代史の第一人者、井上勝生北大名誉教授からは現在のアイヌ政策の基盤ともいえる『アイヌ政策の在り方に関する有識者懇談会』の報告書における歴史認識の問題から、「アイヌの共有財産が物語るものは何か」ということについてお話しいただく予定です。また、アイヌ人骨返還につきましても、第1回の市民会議に続き、その後の展開と今後の展望等について、北大開示文書研究会共同代表の清水裕二先生を中心にお話をいただくこととなっております。たくさんのメニューがあり、皆様のご意見をいただく時間が限られるかもしれませんが、遠慮なさらず、発言くださるようお願いいたします。
市民会議では、研究者や当事者、活動家らによって明らかにされたアイヌ政策上の問題を共有しながら、当事者のアイヌの方々はいうまでもなく、その他のすべての人に開かれた議論を進め、ボトムアップ・アプローチでコンセンサスを求めていきたいと考えております。皆様のご協力をお願いいたします。
井上勝生「アイヌ共有財産裁判からの報告」
吉田邦彦「アイヌ人骨返還に関する声明文」